俳優、藤岡弘、(79)と長女の女優、天翔愛(23)が東京・銀座の博品館劇場で上演中のアクションミュージカル「ZIPANG~遥かなる路~」(19日まで)で初めて父娘の舞台共演を果たした。
妖怪と人間が争いに明け暮れていたはるか遠い昔の地上界。特にZIPANGでは妖怪と人間が結託し、すっかり荒れ果てた土地に。天上界にいた竜族の昇竜はZIPANGの継嗣として帰還を決意し、神である天聖太子から3人の弟子を授けられ、困難を乗り越えながら、同地を目指す物語だ。
昇竜役の愛は俳優、谷内伸也(37)とのダブル主演で初座長。主人公を導く天聖太子役はデビュー60周年にして初舞台となる藤岡が演じる。父は上演中に流れる映像での出演となるが、役柄同様、初主演に奮闘する娘を導いている。強い絆で結ばれた藤岡と愛が親子そろってサンケイスポーツのインタビューに応じた。
――どんな役どころ
愛「今回、私もこんな役やったことないっていうくらい新しい役で〝徳を持って人を導きなさい〟など修行を積んだ高僧が言うようなせりふばかりなので、本当に難しいです。父が演じる天聖太子は神で、私はその存在を敬い、自分もそうなりたいと願う弟子の役なんですね。普段の私が父に対して持っている尊敬している部分だったりとか、そういうのがそのまま舞台の役に持ち越した感覚ですね」
劇中衣装でほほえましいツーショットを披露
――父娘の関係性が役に投影されている
愛「そうなんですよ。私が23歳まで父からリアルに学んで体感してきた人格、徳、品をそのまま生かせる役。父にとって今回が舞台初出演で、親子としては舞台初共演になるということで、私にとっても(人生の)集大成になる。10代の私だったら難しかったけど、今ならできると思えるから、運命を感じる作品だな」
藤岡「いいことだね。僕も初めて君の気持ちを聞いて、成長しているなと感じた。いつまでも子供と思っちゃいかんな、と。やっぱり、今まで出た作品は無駄になっていないね。プロとして社会の中にほおりこまれて、これまで君はいい影響や刺激を受けながら成長してきたんだね」
――昇竜役に共感する部分は
愛「父は神の役なので、道徳を説くせりふがすごく多いんですよ。父は79歳で、ここまで人生経験をいろいろ積んできているから、すごくせりふに説得力があるし、せりふに聞こえないんですよね。家でも台本の読み合わせをしていると、本当に心に刺さる。昇竜も(弟子に)似たようなせりふを言わなきゃならないから格闘しました」
――そのために努力したことは
愛「今まで父に本を読みなさい、といわれてきて、哲学的な本も読んできました。〝力ではなく徳を持って人を導きなさい〟〝愛することを学べばお前は変われるのです〟というせりふがあるんですが、役作りの中でいかにそれを私が実感に落とし込めるか、っていうところに命をかけてきました」
――父に負けない熱血な役作り
愛「天聖太子のせりふで〝今はいろんな妖怪のせいで人々の生活は苦しみに満ちており、道徳などどこにもない〟という言葉があるんですけど、それを現実社会でも実感するときがあって…。もちろん私もまだまだですけど、実際、人間とはどういうもので、どういうふうに生きることが本当に正しいことなのか、と迷っている人はたくさんいると思うんです。そういう人生で迷っている人が、今回の作品を見て道徳ってこういうものなのか、徳を持って人を導く、愛するってこういうことなんだなって私を見て実感してほしい」
藤岡「この物語は今の世を憂いている自分としては(現実と)オーバーラップする。今回親子でそれを演じることによって、皆さんにいい影響を与えられたらうれしいね。これからの日本を背負っていく子供たちや若者たちが、あらゆるものが混沌として先行きの見えない不安な将来の中で、この物語を見て夢や希望が抱けるといいな、と思います。自己発見が起こるんじゃないかっていうストーリーだし、絶えず僕が親子間で子供たちに教え伝えてきたことが、この中にちりばめられている」
――藤岡ファミリーだからこそ体現できる物語
藤岡「この舞台を見れば、〝そうか藤岡さんの親子の会話ってプライベートもこうじゃないのかな〟って思ってくれることが今回の僕のひとつの楽しみでもあります。親殺し、子殺しで家族の絆が破壊されている現代、少子高齢化の時代だからこそ、夢を背負って未来を築くべき子供たち、いろんな経験、体験をしてきた老人たち、この2つの関係性が大事。お互い絆がより強まるような方向にならないと。そういう意味で、今の時代に一番的を射た影響を与えるようなミュージカルになっているよね」
愛「一見、(ファンタジー的な)内容はライトに見えるかもしれないけど、実はすごく深い」
藤岡「(ミュージカルとして)楽しみながら笑いながら、見終わったら〝こういうことだったんだ〟と気づきがある作品。漢字をひらがなに変換したようなストーリー展開が却って子供たちに伝わりやすいんじゃないかな。勧善懲悪の世界観が多くの家族にいとも簡単にスーッと入ってくると思う」
――難しいことをかみくだいて伝えている
藤岡「一言でいえば、父親が息子や娘に〝この世は混沌としているが、お前たちはこの時代を、いい国を作るんだぞ〟と教える内容なんです。私が演じる天聖太子は親であって、教え導いていく昇竜は子供なんだよね」
愛「父はリアル天聖太子(笑)。徳を説いているせりふは、父が今までの人生で体現してきたことそのもの。私が現実で父に憧れ、〝こうありたい〟と思ってきた部分は、昇竜が天聖太子に抱く気持ちと同じなので、そこがすごくリンクしている。役とともに私も成長したいって思える作品です」
藤岡「本当に多くの家族に見てもらいたいね。親にも子供にも家族のそれぞれにしみわたる場面がたくさんあるから。勧善懲悪で分かりやすいし、欲望に翻弄される若者たちを投影するような妖怪たちがたくさん出てくるわけですよ。しかし、そこから目覚めて正常に戻っていく。それが今の世の中にも通じると思うし、天聖太子は〝どんな悪い奴らでも、目覚めたら善に変身できるんだよ〟〝失敗しても戻ればいい〟いうことを教える役。それを気づかせるヒントになる物語を親子でやれるっていうのがいいよね」
愛「昇竜は長女の私だからこそできる役だとも思う。弟子に〝●●しなさい!〟と言うシーンでは、長女の私が弟や妹を普段制しているときに通じていておもしろいと思います」
――今回、藤岡が舞台デビューを決めた理由は
藤岡「愛ちゃんの晴れ舞台に親子共演といういい思い出を残してやりたいなと。もちろん、僕にとって舞台という新たな挑戦になるのもいいな、と。こういう偶然で奇跡のような(作品との)出会いをできたこともうれしいですね」
愛「でも、それ以上に父が言っていたのは、脚本がとても素晴らしく、今の世の中にマッチしているからこそやることに意義があるということ。父が(オファーを)受けた一番の理由はそこだと思います」
――家での稽古はどんな感じ
愛「もちろんせりふ合わせもしていましたが、昇竜が徳を説くなど難しい場面では〝天聖太子として、父として、ここはどうしたらいいと思う?〟と聞いていましたね。今回の役が一番相談したかもしれない」
藤岡「無償の愛をもって人々に尽くす、条件を求めないで自分を割いていく気持ちは大事」
――アクションでの助言は
藤岡「今回、(小道具で)扇子を持った方がいいよ、とアドバイスしましたね。自分の思いや心を扇子ひとつで伝えることもできるし、アクションの動かし方でも道具として役に立つから」
愛「父方の祖母が若かった時代、女性は扇子を武器にしていたと聞いていました。今回アクションはもちろん、護身という意味の動きも扇子で表現できたので、そこも父から学んだ点ですね」
――座長の心得は
藤岡「主演はみんなを愛で包み込み、引っ張っていく大切な存在。自分がダラダラしていたらみんなもそうなるし、存在がはっきりしないと周囲が目移りしてしまう。そういう意味で〝自分が楽しんでいるだけになってはダメだぞ〟〝自分が中心となって指針を示す〟〝一本芯のある主役をやりなさい〟と伝えました」
愛「とにかく私はブレず、せりふを真剣にしっかり言う、と教えられました。この役は私の人格の成長にかかっていると思うので」
藤岡「ここで主役としての可能性を見せなきゃね。足に地がついた姿を本質的に見せなきゃ。ただせりふを覚えてBGMみたいに聞かせるようになっちゃダメ。(観客が)オッと見入って、聞き入ってしまう存在として君は動かないと」
愛「ということをいつも言われています」
藤岡「アハハハ。ごめんなさいね(笑)。とにかく心眼で頑張ってほしい」
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19日の千秋楽まで藤岡に導かれた愛は進化を続けていく。
「サンスポ」より